恋するキモチ
恋するナリタン

遅い春?

今年もまた、この季節がやってきた。


ピシッとしたスーツを着て、何人もの若い顔ぶれが、希望に満ち溢れた表情で登庁する。

「うちの課、今年は新人の配属あるんすかね?」

後輩の山下が隣で腕組みしながらぽつりと呟いた。

「ま、うちはよくて異動組だろうな。新人が入るにはきついだろう」

ふん、と鼻を鳴らし、くるっと向きを変えたその時だった。

「おや?成田さん。おはようございます」

「おぅ」

鑑識課の松坂の姿があった。軽く手をあげて挨拶を返した。

「何を見てたんです?」

松坂が、成田の後ろに視線をうつした。

「あぁ…今年の」

肩越しに見えるのは、スーツ姿の新人たちの姿。

「そういえば、今年は捜査一課にも一人、新人がはいるそうですね?」

『え!?』

思わず山下とハモる。

「それでは私はこれで。お先に」

松坂がすたすたと歩いて行く。

「あ!ちょっと待って!今の話、もうちょっと詳しく!」

山下がそのあとを追うようにして走っていく。

「あぁ、忘れてました」

ぴたりと立ち止まる松坂。山下がぶつかりそうになる。

「その新人さん、女性の方らしいですよ?」

「まじか!?」

成田は思わず目を大きく見開いた。

「真偽のほどは定かではありませんが、そういう話を三井さんがされているのをさっき聞きました」

そう言い残して、彼はまた、すたすたと廊下を歩いて行った。
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