恋するキモチ
30代後半位のサラリーマンのような格好をした男性がうつ伏せになって倒れている。頭のあたりには大量の血だまりができていて、若干後頭部にへこんだような跡があった。

「…血があまり固まっていないようなので、事件が起きたのはほんの少し前。後頭部を見る限りでは、倒れてどこかで頭を打った、もしくは殴られた跡だと考えられますが、うつ伏せになっている状況と、所持品が見当たらないという点を考慮すれば、たぶん、バットか何かで殴られたんだと思います」

京子の言葉に、周囲はあっけにとられた。

「衣服の乱れもないようなので、争ってはいないみたいですね。不意打ちでも食らったのかな」

初めての現場で、しかもまだ20代前半の女の子。血溜まりに血の匂い、なにより他殺体を前にして、ともすれば吐いてもおかしくない状況だというのに、京子は平然とした様子で、手渡された手袋をはめながら、遺体と、その周囲を注意深く観察する。

「あ…内ポケットになんか入ってますね。取ってみてもいいですか?」

成田の方をむくと、無言で頷いていたので、京子はすっと内ポケットに入っていたものを取り出した。

「…名刺ですね」

裏と表を確認した後、成田に渡す。山下と三井も、覗き込むようにしてその名刺に目を通していた。


でも、なんか変なのよねー、この遺体。


うーん、と遺体を眺めながら唸っていると、成田が声をかけてきた。

「どうかしたか?」

聞かれて少し、困った表情になる。

「どうかしたというか…何かが引っかかるんです、この遺体」

「引っかかる?」

「はい…」

また、うーん、と小さく唸る。

「とりあえず、近所を山下と一緒に聞き込みにあたってくれ」

「あ、はい」

成田の指示に、京子は小さく頷くと、山下と一緒にブルーシートを出て行った。
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