恋するキモチ
暫く近所で聞き込みをしてみたが、まったくなんの手がかりも得られなかった。
不審な人物や物音、叫び声。
そういった『非日常的なもの』に遭遇した人はいなかった。

がっくりと項垂れながら、山下と一緒に現場に戻ると、成田と三井が、1人の男性と何かを話していた。

「目撃者か何かでしょうか?」

山下に聞くと、山下もさぁ、と首を傾げていた。
とりあえず、成田と三井のそばに近寄った時、成田が男性に頭を下げていた。

「ご協力、ありがとうございます」

男性も軽く頭を下げると、別の警察官に呼ばれて、また、何かを話し始めていた。

「先輩、あれ、誰です?」

聞かれて三井が答えた。

「第一発見者だよ」

ふぅん、と男性の方を見る。上下黒のスウェットに、首には真っ白なタオルを巻いている。スニーカーは有名なブランドの茶色が基調のスニーカーだった。
と、ふと、男性のズボンのすそが濡れているのに気づいた。


…雨、降ってないのに。
なんで濡れてるんだろ?


「いつもこの近所をジョギングしてるらしい。たまたま、倒れている被害者を見つけて、通報したそうだ。不審人物を見てないか聞いてみたが、そういった人物は見てないらしい」

「そうですか…」

成田の言葉に、京子はもう一度、ちらりと男性を見た。


…いつもジョギングしてる割に、スニーカーがめちゃめちゃきれい。でもってあのスニーカーって、確かだいぶ前に廃番になってて、今は売られてないよね。プレミアもついてるんじゃなかったけ。


心の中のもやもやが、あるひとつの推論に結び付く。

「おい、杉本?」

成田に声をかけられて、京子はひとつ、大きく深呼吸をした。

「すいません。ちょっと聞きたいことがあるんで聞いてきます」

「あ、おい!」

京子は男性のそばへと近寄って行った。

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