恋するキモチ
杉本が隣に座り、マジマジと遺体を見つめている。


…血の臭いも、遺体も平気なのか?


杉本にとってみれば、初めての現場だ。いくら遺体がまだきれいな方だといっても遺体は遺体。ましてや他殺体だ。気持ち悪くなって、吐いてしまうやつだっている。

「…血があまり固まっていないようなので…」

すらすらと思ったことを口にしていく杉本に、正直、俺は圧倒されていた。

「あ…内ポケットになんか入ってますね。取ってみてもいいですか?」

杉本に聞かれて、俺は黙って頷いた。


こいつの観察力といい、現場慣れした感じといい。いったい何者だ?


呆気にとられている俺に、杉本は1枚の小さなカードを渡してきた。

それは、銀座にある有名なスポーツジムのインストラクターの名刺だった。

「うーん…」

ふと、杉本が唸っているのに気づく。

「どうかしたか?」

少し眉をひそめながら、杉本が口を開いた。

「どうかしたというか…何かが引っかかるんです、この遺体」

「引っかかる?」

「はい…うーん、なんだろ…」

唸りながら首をかしげている杉本と遺体を交互にみやる。

「…とりあえず、近所を山下と一緒に聞き込みにあたってくれ」

「あ、はい」

俺の言葉に杉本は頷き、山下と一緒に現場を離れていった。

「引っかかる…ねぇ」

遺体をじっと見つめながら、見落としている部分がないかをもう一度調べてみることにした。


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