恋するキモチ
女性の名前は竹内都。この小料理屋の女将をされているらしい。警視庁からそう遠くない場所にあることもあってか、警察関係者がよく食べに来るそうだ。

成田がただの同僚だと否定したのは、都の前だからかと京子は思ったのだが、どうもそうではないようだった。

都はすでに結婚していて、旦那様と2人の息子が居るらしい。
そんな人間を相手に、まさかまじめで超のつく奥手の成田が、何か関係があるとは到底思えなかった。

暫く談笑していると、都が慌てた様子で小さな冊子のようなものを取り出した。

「そういえば、お料理なんにするか。まだ聞いてなかったわ」

ごめんなさい、と手渡されたそれには、お品書きと書かれていた。


あぁ、そういえばまだ料理頼んでなかったっけ。


そう思ってメニューを開く。漬物の盛り合わせに山芋の梅和え。肉じゃがにカレイの煮付け。里芋のにっころがしに、ごぼうと牛肉のしぐれ煮。
見るだけでもおいしそうなものがたくさん載ってあった。

「俺はいつものでいい」

成田の言葉に、視線がメニューから成田へと移っていった。

「わかってます」

まるで夫婦のような2人の会話に、思わず胸がちくっと痛んだ。

「どうした?料理、決まったのか?」

成田と目が合う。慌てて首を横に振った。

「え?あ…いえ、まだ…」


都さんはもう結婚してるんだもん。
関係なんて、ないって。
頭ではわかってるんだけど…


なんとなく切なくなってきて、思わず気持ちが沈んでいく。
じっと成田を見つめていると、首を傾げながら、お勧めのメニューをいくつか教えてくれた。


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