恋するキモチ
『…………』


勢いよく開いた扉を、私にはもちろんとめるすべはなかった。
予想していなかった出来事に、頭の中が真っ白になる。

「わ、悪い!」

成田の言葉にはっと我に返る。


み…見られた!?


幸い、上はすでに着替えていたので良かったが、ちょうどズボンを穿こうとしていたところで、下は下着しか身に着けていない状態だった。

慌ててズボンを穿き、スーツを急いで畳んで隅に追いやった。


耳まで真っ赤になっている成田の後姿に、声をかけると、へんな叫び声が返ってきた。
驚いて私は、思わず謝る。
と、成田も悪かった、と謝ってきた。


…とはいえ、成田さん。どう思ったんだろ。
私の足、今めっちゃむくんでるしな…
最悪。何でこんなときに限って見られちゃうんだろ。


自己嫌悪に陥っていると、成田が着替えていた部屋の方に敷いてある布団で寝るようにと言ってきた。


も、もしかして!
成田さんと一緒に寝るの!?


思わずじっと成田を見つめていると、成田は苦笑しながら続けた。

「お前も明日は出勤だろう?少しでも寝ておいたほうがいい」

もしかして。そう思えば思うほど、私の心臓はどんどん早くなっていく。

「えっと…その……成田先輩は…どうするんですか?」

「あぁ、俺はこっちのソファで寝る」

「え、そんな…」

期待はずれの言葉。いや、成田は決して間違ってはいないし、寧ろ成田なら確かにそういうだろうという返事に、思わず残念そうに呟いてしまう。

「安心しろ。寝込みを襲ったりはしねーよ」

成田に言われて、寝込みを襲う所を想像してしまう。が、顔を真っ赤にした可愛い成田の姿しか想像できず、思わず笑ってしまった。

が、布団が1組しかないということがわかり、慌てて布団で寝ることを辞退する。


元はといえば、私が終電わざと逃したのが原因なのに…
成田さんを布団もなしでソファーで寝かせるなんてできないって。


しかし、成田は頑として譲らず、無理やり京子を布団に寝かしつけた。

「…おやすみ」

そう言って、成田が電気を消す。

「おやすみ…なさい」

もやもやとした気持ちのまま、私は目を閉じた。
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