恋するキモチ
彼女の話はさっきから要領を得なかった。洋司の会社での仕事ぶりや、人当たり、面倒見の良さなど、どうでもいい。

「で、用件は？」

今はもう別れた相手のこと（というか、付き合ってるとしてもこんな苦行はごめん被る）をいつまでもうだうだ聞いていられるほど、私は優しくない。

もうほとんどなくなったグラスを眺めながら聞くと、彼女は決心したような顔をして私に言った。

「田中先輩と仲直りしてあげてください」

その一言に、私は眉をひそめた。


…何、言ってんの、この子。


彼女は続けた。

「杉本さん、この間先輩以外の男性の家に泊まりましたよね？」

京子はさらに訝しげな顔をする。

「あの時、杉本さんをお見かけした時、私もその場にいたので」

何かのフォローのように彼女は慌てて言った。

「田中先輩、あの時から様子がおかしくて。会社でもぼーっとしてる時間がなんだか多いし、心ここに在らずっていうか。あんな様子の先輩を見てるのが辛いって言ってる子もいて」

ペラペラと喋り続ける彼女の言葉を、特大のため息と一緒に遮った。

< 83 / 97 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop