心の距離
「西野は口だけだからな。神田はそれがわかってるから、余計に腹が立ったんじゃないか?」

「ことみが居なくなったら、売上落ちるだろうな。隠れファンが結構居るぞ?みんな金持ちだし、親分なんかことみ目当てで通ってるもんな。俺も通うの辞めるかな…」

「神田のお陰で相当楽出来てたのになぁ…西野には参るよ」

「…ちょっとすいません」

マネージャーと大島さんの会話を尻目に、ポケットから携帯を取り出しながら部屋を後にした。

店の外に出ると、少し離れた場所で電話をしている彼女。

店を辞めたなら、従業員と客の関係は終わる。

顔を知っている男と女に変わったんだ。

…せめて携帯の番号だけでも…

携帯を握り締め、精一杯の勇気を振り絞りながら、ずっと気になっていた彼女に歩み寄ろうとした。

「あの…」

背後から聞こえた声に振り返ると、江川さんがうつむきながら小さな紙を差し出して来た。

「これ…あたしの携帯番号です。受け取って貰えませんか?」

「は?」

「…かけて来て貰えませんか?」

「クビになるよ?」

「良いです。仕事ならいくらでもあります。受け取って下さい」

「そんな気持ちだからミスするんじゃない?」

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