心の距離
真っ赤な顔をしながら僕の顔を見上げる江川さんに、冷たく言い放つように告げた。

「大体、名前も知らない男に携帯の番号渡すなんて軽過ぎるよ。俺の事、何も知らないのに番号渡すとか、マジで有り得ないから」

「…神田さんなら受け取りますか?」

突然、ことみちゃんの事を言われ、息が詰まり、体が固まった。

「あたし知ってるんです。ずっと、貴方が神田さんの事を見てたのも、神田さんが休みの日に来ないのも全部知ってるんです。…何で神田さんなんですか?あたし、ずっと見てたのに…何で自分を見てくれない人なんですか?」

マシンガンのように放たれる質問に、ため息をつきながら小さく答えた。

「…見てくれ無いからかな?夢の中ではずっと見てくれるのに、現実では全然見てくれ無い」

「…夢?」

「笑いたきゃ笑えよ。受け取らない事には変わらない」

江川さんの涙に目も向けず、ただ冷たく言い放つと、背後からことみちゃんの声が聞こえた。

「ひろちゃん?ど…どうしたの?」

慌てて江川さんに駆け寄ることみちゃん。

「ちょ!ひろちゃん!」

ことみちゃんから逃げ出すように、江川さんは駅に向かって行った。

< 29 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop