心の距離

偶然の確率

数時間後、仕事を終え、渋滞に巻き込まれたせいで、いつもより遅い時間に会社に戻ると、事務処理をしている社長に呼ばれた。

「みんな、ちょっと来てくれ」

社長直々の呼び出しは、ほとんど最近起きたクレームの事。

春樹さんと共にため息をつき、事務所の中に入った瞬間、眉間に弾丸を打ち抜かれたような感覚に襲われた。

「紹介するよ。新しい事務員の神田ことみちゃん」

「よろしくお願いします」

笑顔で深々と頭を下げる彼女に、体が固まり、息が詰まった。

「現場監督の坂本春樹と、春樹にいつも付いてる田辺瞬と小山洋介。こいつらの領収書はことみちゃんの担当だから、さっき説明した通りにやってあげてね。報告書受け取ったら帰って良いから。じゃあまた明日ね」

終始笑顔で会社を後にする社長の言葉に耳を疑った。

物凄い低い確率で、突然目の前に現われた彼女。

手を伸ばせば届く距離に、彼女が居る夢のような現実。

「瞬？行くぞ？」

「え？あ、はい…」

夢か現実かもわからないまま、春樹さんに声をかけられ、後ろ髪を引かれる思いで事務所を後にした。

合コンのある洋介はさっさと帰宅し、更衣室の片隅にあるソファに座ると、春樹さんが話しかけてきた。
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