心の距離
深々と頭を下げながら告げる彼女。

抱き締めたい衝動に襲われたが、今抱き締めたら、せっかく解けた誤解が事実になってしまう。

「いや…大丈夫ですよ。あんな所見たら、誰だって誤解します。ヒデの前で女の子が泣いてたら、俺も誤解しますし…」

「ヒデさんって、いつも一緒に居た冷たい方ですか?」

「冷たい?何かされたんですか?」

「いえ…彼女さんに対して凄く冷たいんで…もっと優しく出来ないのかな?って、ずっと思ってました」

「…ずっとヒデの事、見てたんですか?」

「いえ…話して良いのかわかんないですけど、前に見ちゃったんですよね。彼女さんに『あたしとスロットどっち取るの?』って怒鳴られて『スロット』って平然と答えてる所…酷い人だなぁって思ってました」

「そう言う事か…良かった…そろそろ帰りましょうか。会社、閉めなきゃいけないんで…」

「あ!すいません!すぐ着替えて来ます!」

鞄を抱えながら、慌てて更衣室に向かう彼女。

夢の中のように上手く話せないが、彼女と二人きりで話を出来た事が、単純に凄く嬉しかった。

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