心の距離
以前は車を持っていたけど、車検を機に手放したきり。

…どうしようかなぁ…

力無く考えながら会社に着き、春樹さんから報告書を受け取った。

「戸締まり頼むな。明日のミーティング、昼からだからな。遅れるなよ。お疲れ」

「お疲れ様です」

急いで車を降りて行く春樹さんが、凄く羨ましく思えた。

ため息をつきながら事務所に入ると、暗い表情をしたことみちゃんが視界に飛び込んだ。

時計を見ると、時間は10時過ぎ。

彼女と会えた喜びを押し殺しながら小さく告げた。

「…お疲れ様です」

「あ、お疲れ様です。こんな時間にどうしたんですか?」

驚いた表情で聞いてくる彼女。

「今戻ったんですよ。神田さんは?もう、10時過ぎてますよ?」

「あ…あの…忘れ物しちゃって…」

暗い表情のまま呟く彼女。

「…もしかして、俺の事待ってました?」

「違います」

小さな期待を胸にさり気なく聞いた言葉は、あっけなく砕け散ってしまった。

「あ、凄い失礼ですよね!すいませんでした」

「いえ…何かあったんですか?」

何も答えずにうつむく彼女。

時計の針の音だけが響く中で、彼女の携帯が小さく震えはじめた。
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