心の距離
「…出ないんですか?」

「…出たく無いんです」

携帯の震える音の中、小さく答える彼女。

彼女の事が知りたい。

単純過ぎる思いと、やっと作る事の出来た話す口実。

最初で最後になるかもしれないチャンスを、失いたく無かった。

「俺で良かったら相談に乗るし、何でも話して下さい」

「…話したくないんです」

「聞く事しか出来ないけど、話せばスッキリするし…」

「話したくないの!」

「だったら出ろよ!」

気持ちが伝わらないもどかしさと、否定され続け、怒鳴るように言われた苛立ちがピークに達し、彼女に怒鳴り返してしまった。

「…すいません。怒鳴るつもり無かったんですけど…本当にすいませんでした」

報告書を机に置き、事務所を後にしようとすると、彼女が告げてきた。

「あ、あの…お願い聞いて貰えますか?」

「良いですよ。何でも言って下さい」

「5分だけ…彼氏の振りして貰えませんか?」

「え?…5分だけ?」

「ひろちゃんには後で謝りますから…1分でも良いんで…電話に出てくれるだけで良いんで、お願いします!」

深々と頭を下げながら言われ、呆然とするしか無かった。
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