心の距離

余程話したくないのか、仕事の話ばかりしてくる彼女。

思い切って、彼女に切り出した。

「あの、さっき電話で聞いたんですけど…」

「違う話しましょ」

「…知りたいんです」

「やめましょうよ。そんな話…」

聞きたかった言葉達は全て遮られ続け、ポケットの中で拳を強く握り締めた。

信号に差し掛かると彼女は申し訳無さそうに告げてきた。

「さっきは本当にありがとうございました。また明日」

「遅いから送ります」

「でも…」

「送らせて下さい」

「…お願いだから、これ以上優しくしないで下さい。…辛くなるだけです」

小さく呟くように告げた後、彼女はうつむいたまま走り去ってしまった。

引き止める事も、追いかける事も出来ず、ただ呆然と立ちすくむだけ。

…過去に何があったんだよ…

どんなに知りたくても、どんなに風に聞いても、何も答えてくれない彼女。

無理矢理聞き出せたら楽なのはわかってる。

あれだけ拒んでいる彼女を傷付けずに、無理矢理聞き出す事は不可能に近い。

自分の中に重く伸し掛かる、彼女を騙している元彼の存在。

見た事も無い男に嫌悪感を抱き、重い足取りのまま帰宅した。

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