心の距離
『これ以上優しくしないで下さい』

彼女の口からこぼれ落ちた言葉が、頭から離れない。

帰宅後、煮え切らない気持ちを洗い流すように、シャワーを浴びても気持ちは晴れなかった。

ため息をつきながら部屋に入ると、久し振りに見たヒデの姿。

「よう。久し振りだな」

ヒデの隣に座りながら、テーブルに置いてあった缶ビールに手を伸ばした。

「だな。最近、違う班だもんなぁ…担当事務員は社長だし、現場監督は島崎さんだし…瞬が羨ましいよ…」

「島崎さんなら早く帰れるじゃん。モタモタしてると怒鳴られるし」

「良い所ってそれだけだよ。せめて、担当事務員がことみちゃんだったらなぁ…毎日、報告書出しに行く度に社長に愚痴られてさ、それ見てクスクス笑ってんだぜ?超可愛いよなぁ。すげぇ惚れそう…」

「…飲み過ぎじゃね?ちょっと寝ろよ」

「マジで早く振ってくれないかな…何しても別れるって言わないしさぁ…早くことみちゃんに乗り換えてぇな」

「…車じゃねぇんだからさ」

「あ、そういえば、いつから付き合ってんの?ひろみちゃんと」

「何言ってんの?夢でも見たか?」
< 56 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop