心の距離
「…正夢にはならないです。正面から抱き締めてくれたから…」

「キスして良いなら、正夢にしてあげる」

「…ここ、会社ですよ?」

「二人きりには変わりないよ」

「…お酒の勢い?」

「それもあるかもね。キスしたく無い?」

黙ったままうつむいてしまった彼女と、普段の自分からは想像もつかない言葉を放つ自分。

アルコールが残っているせいで、夢のようにも感じるが、腕の中にある確かで柔らかな感触は夢では味わえない筈。

「…ことみ?こっち向いて?」

「…ひろちゃんの代わりにしないで」

「して無いよ。ことみを見てる。…キスしよ」

「…彼女に何て言えば良いんですか?」

「言う必要無いよ。付き合って無いし」

驚いた表情で顔を上げる彼女の唇に、強引に唇を重ねた。

何度も夢で見た彼女とのキス。

彼女に気持ちを伝えたい…

彼女に心の距離を近付けたい…

唇を重ねたまま、彼女を正面から強く抱き締め、思いが伝わるように唇の間から割り込んだ。

彼女の口の中で逃げ回る柔らかく温かい感触。

柔らかな感触を追いかけ回す僕の気持ち。
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