心の距離
ことみちゃんの腕を掴んだまま、ため息混じりに聞いた。

「ちゃんと説明しろよ」

「あの…すいませんでした」

深々と頭を下げる江川さん。

それだけじゃ、全然納得がいかない。

「どう言う事か、ことみにちゃんと説明しろって」

「…悔しかったんです。神田さんは、あたしの欲しい物を簡単に手に入れちゃうから…田辺さんだけは取られたくなかった」

「…ひろちゃん、何言ってるの?」

「嘘吐けば、神田さんの方から離れて行くと思ったんです。神田さん、元彼のせいで精神的に弱ってるから、優しくされたら揺らいじゃうと思って…」

「ひろちゃん最低だね。そんな事してたら、あの人みたく一人になっちゃうよ?誰も居なくなっちゃうよ?」

「ごめんなさい…」

「…ひろちゃんに話した私がバカだった。さよなら」

僕の手を振り払い、走り去ってしまったことみちゃん。

黙ったままことみちゃんを追いかけようとすると、江川さんが口を開いた。

「あの…給料日後の金曜、7時に新宿駅の東口に行ってあげて下さい。神田さん、元彼と毎月待ち合わせてます」

「毎月?」

「絶対に行ってあげて下さい。恩を仇で返しちゃったし、二人に罪滅ぼししなきゃ」
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