Hurly-Burly 【完】
あたしの生命の危機を一日に何度も体験するとは
思わなかったよ。
「相沢ティーチャーはさ、煙草吸わないでしょう?」
村田ティーチャーはどうか知らないけど、
「ん?」
伊織君がジッポを持つ手が止まる。
「それ、あたしが原因だと思う。」
あの人は意外と優しいからだ。
心は捻くれただけで本当は誰よりもあたしの
味方で居てくれる人だ。
「何で?」
さっきまでぼーっとしてたちぃー君が
あたしを見つめる。
「よく吸う人だった。
煙草が切れるとイライラするし、
女に走ると言うのだろうか・・
伊織君以上に女の子泣かしてたんじゃないのかな?」
自分の立ってる場所が分からなくなるほど、
その時はがむしゃらに生きるしかなかった。
「だから、ある日こっそり煙草の箱を
全部捨ててやったさ。
ケータイもぶっ壊したさ。」
煙草も女の人もただの逃げ道だった。
「えええええっ、それ酷ぇな」
今思うと、確かにそんな気がする。
慶詩が思うのも無理はない。
「けど、可哀想だった。」
あの日もすごくイライラしてた。
物に八つ当たりする彼を目のあたりに
した時は止められる自信なんてなかった。
「えっ?」
ナル君があたしを不思議そうに見つめる。
「煙草を吸ってても女の人小脇に抱えても
全然幸せそうには見えなかった。」
それが逃げ道ならって思った。
近くで見ていたのだからよく分かる。
「何をやっても上手くいかないって泣かれた
時にはさすがに引っ叩いてやった。」
それを言うならもっと周りを見ろと、
煙草や女の子になんか縋り付くなって
怒りが爆発したのかもしれない。