Hurly-Burly 【完】
***
said:藍
まだ、コートを羽織る季節試験のある日に、
変わった子に出会った。
ソワソワする他の子に比べてその子は堂々と
していて、一見無表情に見えるポーカーフェイスで
試験を受けるその子は1教科ごとに空く休み時間ですら
本を読んでる真面目な子だった。
他の人は周りと騒ぎ合ってたりしているのを見て
うんざりしたけど、その子を見ると『人生について』
とかいうやたら活字のある本をスラスラ読んでた気がする。
お昼休憩でもその子は本を読んでいた。
試験勉強をズルズル引きずる他の子に比べて、
その落ち着きようはだいぶ変わり者だった。
ちっとも、表情を崩すこともなく試験を
受けていたその子が一度だけあたしを見て
にっこり笑った時があった。
丁度、消しゴムが前に転がって行って
試験が始まる合図が鳴ってどこに行った
のかも分からない消しゴムに頭が真っ白に
なって手を上げることすら出来なかった。
「これで良かったらどうぞ。」
その子は自分の消しゴムを半分に割って
あたしに差し出してくれた。
その時の笑顔は作っているような気がした
けど、こういう顔も出来るんだと思って有り難く
受け取って置いた。
その後、試験が終わった後に返すべきか悩んで
いたらその子はスタスタ歩いて行ってしまって
あたしも慌ててその子の後を追った。
さすがにお礼の一つも言わないのは失礼な
気がするからと思ってその子の後を追ったが
一瞬目を放した隙に見失った。
消しゴムを握りしめたまま茫然と立ち尽くす
あたしには後悔しか残らなかった。
どうして、すぐにありがとうと言えなかった
んだろと考えるとあの時の笑顔を思い出した。
一瞬だけだったけど、ずっと気になってた
その子が笑ってくれるとは思わなかった。