Hurly-Burly 【完】
勝手に口が開いてた。
自分でも言うことじゃないことだった。
「なぁ、手伝ってやろうか?」
額に光る汗をハンカチで拭きながら、
振り切るような言葉でその女は言い放った。
綺麗に伸びたセミロングの黒い髪が
風に攫われていく瞬間だった。
「そんなの要らないわ。」
何もかもを否定するようなその
無表情に腹が立った。
正直、俺が言った言葉を断る
ヤツが居ると思わなかった。
「お前、何なの?」
だから、責めたてるようなことしか
言えなかった。
「あたしはあたしよ。」
その意思の強い目を見て怯みそうになった。
綺麗な黒い瞳を揺らすこともなく真っ直ぐ
に向けられた瞬間俺は何故か逆らえない
気がして口を閉ざした。
しばらくの時間その場に居たヤツは
何もしてやれなかった。
その女が仕事をこなす背中を見るだけ
しか出来なかったんだ。
近付くなと言わんばかりに放つ
雰囲気に誰も何も口に出すことは
なかった。
「はぁー、終った。」
一人で終わらせることなんて出来やしねぇと
思うぐらいの量だったから少し経ったら
手伝ってくれって言うかもしれないと
思ってたが、最後の最後でも言わなかった。
「委員長、それ持ってくの手伝うよ?」
ナルのヤツがおずおずと変な女に
近付いていく。
「ありがとう、その気持ちだけもらっていくね。」
ナルに向ける笑みはさっきの100倍は良かった。
冷えていく行くような笑みを浮かべるその
女に何故か恐れがあった。