Hurly-Burly 【完】
机に手を付いて席を立とうとしたその
変な女が視界の端から消えた。
ドサっと聞こえた音だけがして、
一瞬何が起きたのか分からなかった。
ナルが泣きそうになりながらそいつに
駆け寄って行く姿が見えてた。
黒い艶のある髪が床に広がり、
青白い顔で瞳を閉じたその女を
見た瞬間血の気が引いた。
「おいっ、」
声を掛けても目を開けないその女の
腕は細すぎて怖くなった。
「・・・・ッチ」
困惑に満ちたこの場に舌打ちした
ヤツが居るのかと怒鳴ろうとした
瞬間のことだった。
俺の腕を払いのけて掻っ攫う。
いつの間にか居たらしいそいつは、
焦った様子で変な女を壊れ物のように
そっと抱き上げて大事に抱えた。
「ヒヨリ」
そう言葉を掛けるその男は、
紛れもなく担任の相沢で、
そいつとは結構前からの
知り合いだった。
そんな相沢が焦るところを
初めて見た気がした。
「ったく、お前は頑固な娘だよ。
しっかりしろよ、ぜってぇくたばるなよ。
すぐ連れてってやるからな。」
変な女に声を掛ける相沢が、
颯爽と教室から去る間際。
「相沢」
珍しく千治が声を張った。
寝たばっかりのコイツが何を思ったのか、
今にも駆けだしそうな相沢を一言で止めた。
「悪ぃな、この嬢ちゃん連れてってからな。」
相沢が千治の顔を見ながら言った。
その後、思い出したかのように廊下
に響く相沢の足音がバタバタと消えていく。
その後に残ったのはただの困惑だけだった。
そんなことが納得行くわけなかった。