たとえばそれが始まりだったとして
「そうなんだけどね。ま、聞いてよ。今日いきなり昼休みに呼び出されてさ、金曜のことがあるし何だと思ったけどとりあえず会いに行ったわけ。そしたらさあ、彼女、何て言ったと思う? 『何だかんだこの前はちゃんと返事出来なかったから一応きちんと返事するね』って。一応って何だよって感じ。他に意図があっての告白なんだから改めて返事してくれなくてもいいのにね。俺がそう言ったら、自分なりのけじめだからって」
「けじめ……?」
引っかかった単語を繰り返すと、眞鍋は意味深な笑みを浮かべた。
「そこまでは聞いてないよ。いずれ知ることになるんじゃない? きみが小春ちゃんを想ってるならね」
「……」
「まっ、そういうことだから。俺はちゃんと伝えたからね。小春ちゃんとはこれからも良いお友達でいさせてもらうよ」
「はっ?」
ちょっと待てと向き直った時には遅かった。眞鍋は黒板上の時計をちらりと見た後「やばっ部活遅れる」と言ってさっさと教室を出て行ってしまった。
いつかの放課後といい金曜日といい、いつもいつも去り際は鮮やか。言いたい事だけ言っていなくなるなんて自分勝手にも程がある。言い逃げとはまたいい趣味をしているじゃないか。
呆然とその場に立ちすくむ俺に対し、前方から一言。
「修一もふられちゃうかもね」
「……五月蝿い。堂々と盗み聞きしやがって」
「……」
「……」
「部活行かないの?」
「っ行く!」
もはやため息すら出ない。
◇◆◇
『修一もふられちゃうかもね』
そう言ったヒロの台詞が頭から離れない。
わかってる、わかってるんだ。
眞鍋が言っていた彼女のけじめが何に対してなのかは知らないが、眞鍋にきちんと返事をしたってことは、俺だって返事を貰うのは時間の問題だ。その時は確実に迫っている。
――ダンッ
「おい桐原! どこ蹴ってんだよ!」
「っすみません!」
「集中しろよー!」