たとえばそれが始まりだったとして
駄目だ。焦れば焦る程どつぼにはまっていくようだった。
覚悟していたはずなのに、いざその時になると覚悟も決意も簡単に揺らぐ。情けないが彼女を失うのが怖くて仕方がない。離れたくないと一緒にいたいと心が叫んでいる。遠藤に大口叩いておいて彼女の気持ちを受け入れられないかもしれないなんて、本当、格好悪すぎる。
「だっさ……」
だって、こんなにも好きなんだ。
俺はまだ彼女を知らない。
会話中、俺の身内話は喜んで聞くくせに自身の家族の話題はゆるりと避けるのも。話を聞いている最中の笑顔に嘘はないだろうけど、ふとした時に寂しげな表情を見せるのも。どうしてそこまであんぱんが好きなのか……ってこれは置いておくにして。告白した時、俺ではなく恋そのものを拒否したように見えたのも。それから、あの時、二度目に彼女を見た時もそうだった。
何か理由があるのかそうじゃないのか、何にせよわからないことだらけなのに変わりはないけど、傍にいてあげたい。支えたい。不安があるなら、心配事があるなら、笑顔でいられるように何とかしてあげたいんだ。
そんな風に思ってしまったら、もう終わりだろう。
◇◆◇
彼女を初めて見たのは、ここ東高校に入学するよりも前、高校入試の日だった。
通学に不便はなく、学力的にも問題はない、それでいて部活動も割と盛ん、そんな在り来たりな理由で特に迷うこともなく選んだ高校。レベルで言えば中の上、進学率七十五パーセントと高いのか低いのかいまいちわからない一応進学校だ。俺の入りたいサッカー部は、余程部活動に力を入れてないという学校でなければ必ずと言っていい程存在する部活なので、その点で高校を絞る苦労はなかった。
担任からは、平常心でいつも通り鉛筆を握れば受かる事はほぼ間違いないと言われていた。だから入試の日も、周囲の張り詰めた緊張感に晒されながらも、焦る事なく至って冷静でいる事が出来た。
ラッキーな事に席は窓際の後方で、窓の外を眺めながら静かに開始を待っていた時だった。