たとえばそれが始まりだったとして
◇◆◇
日も暮れた放課後、部室棟裏の駐輪場、私はそこにいた。
三十台近くがずらりと並んでいて、その中には毎朝目にしている桐原君の自転車もある。学校名と識別番号の描かれたステッカーが、電灯に反射し暗がりの中でてかてかと光っていた。
グラウンドからは、掛け声も聞こえなければ地を駆ける音もボールの跳ねる音もなく、そもそも活気が感じられない。それもそのはずで、時刻は六時半、部活が終わる時間なのだ。もう十五分もしないうちに、この駐輪場も部活を終えた生徒でいっぱいになるだろう。
帰宅部である私が、何故ここにいるかというと、話は二時間前に遡る。
―――……
HRを終え帰り支度をしている時だった。やや冷めた表情の遠藤が机を挟んで正面に立ちふさがり、こう言い放ってきた。
「金曜日、眞鍋に告白されたでしょ」
私は当然焦った。だって、眞鍋君に呼び出されたことは知られていても告白されたとは一言も言ってない。しかも明らかに質問ではなく断定的な言い方だった。
「え、いやー、その」
告白されたのは事実だけどまさか桐原君に対する腹癒せでしたなんて言えるはずもなく。どう返せばいいのかわからない。否定したって信じてもらえないだろうし。
「別に根ほり葉ほり聞こうなんと思ってないわよ。で、返事は? 断ったの?」
「う、うん。もちろんだよ。OKするわけないじゃん」
「なんでよ?」
「なんでって……」
だって私は。私は……なに?
「ねえ小春、あんたが眞鍋をふったのって初めに桐原をふったのと同じ理由?」
「え」
「どうなのよ?」
ひっ。こ、恐いよ遠藤。威圧感がはんぱないです。
私は泣きそうになりながらも必死で首を横にふった。
「ふーん。そう、じゃあ今日は桐原と帰りなさい」
「はっ?」
「部活終了時刻は六時半。自転車通なんでしょ、桐原。駐輪場で待ってれば会えるわ」
「ちょっ、何言ってんの遠藤。何で桐原君と帰んなきゃいけないの? てか約束してないし! 友達と帰ってるのかもしれないじゃん。急に行ったら迷惑でしょ!」
「朝いきなり約束もなしにひとん家の前に立ってるのは迷惑じゃないっての? 今更んなこと気にしてんじゃないわよ。お互い様でしょ」