たとえばそれが始まりだったとして


三十分後。
私はお母さんに言ったとおり洗い物をしていた。といっても、今朝の分と先ほど夕食で私が使った分だけだからそんなに量は多くない。

スポンジでお皿を洗う。
その時、水音にまじってガチャという音が聞こえた。
お姉ちゃん帰ってきたかな。

ドアに注意を向けていると、すぐに開いて、お姉ちゃんがリビングに入ってくる。

「おかえりー」

「ただいま。あれ、お母さんは?」

きょろきょろとリビングを見回す我が姉。

「出掛けるってさっき出て行った。お姉ちゃんも行くんでしょ?」

「まあね。シャワー浴びたら行くわ」

「ご飯は?」

「食べてく」

「だよね」

この場合の『食べてく』っていうのは、うちでって意味じゃなくて、出掛け先でって意味だ。毎度のこと。

会話してるうちに洗い物終了。
やることないし、部屋に籠もるか。


時刻はまだ七時過ぎ。
テレビをつけて適当にチャンネルをまわす。それをぼーっと眺めていると、


『俺、本気だから』


「!」

突如頭に浮かんだ、謎の声。
謎というか、もろ桐原君の声なんだけど!
なんで思い出しちゃうかなあ。
彼のことは忘れるんだ。

「……」


『春日原』


「のおおおぉ!」

だめだ。
忘れようとすればするほど頭にへばりついて離れない。
って!
忘れたいって思うってことは、その時点で桐原君のこと考えてんじゃん!
うあー、だめだな自分……。

「ちょっと、小春なにしてんの。遊ぶのはいいけど近所迷惑になることはやめてよね。それと、あたしもう行くから。お風呂お湯ためてあるから冷めないうちに入っちゃいなよ」

「……、はーい……」

切ないなあ。

「はぁ」

ばふっ、とベッドに横になる。
枕に顔をうずめて、瞼の裏に現れたのは、だけどやっぱり彼だった。

「お風呂入るか」


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