たとえばそれが始まりだったとして
サイドストーリー~眞鍋視点~ 終わり良ければすべて良し


俺は今まで至って普通に生きてきた。
それなりに楽しいこともあれば辛いこともあったし、価値観が変わるような出会いもなければ絶望する程の挫折を味わったこともなく、多くの人がそうであるように平凡といっていい人生を歩んできた。


家族は特別仲が悪いわけでも良いわけでもない。父親はそこそこの位についたサラリーマン、母親は家事好きな専業主婦、年の離れた姉は既に結婚していて家を出ている。嫌いじゃないけどちょっと疎ましい、俺にとって家族とはそういう存在だ。


学校では、目立ちすぎず地味すぎず、周囲とは当たり障りない付き合いを心掛けて。容姿は悪くないと思うし、適当に愛嬌愛想を振りまけば簡単に人は寄ってきた。おかげで独りになることはないけれど心から信用できるような奴もいなかった。人の関係なんてそんなものだと割り切っていたからそれで構わないと思っていたし、不満もなかった。ただ、満足していたかと問われれば、答えはいつだってNOだった。でも、この世界で自身の生活に満足している人なんてほんの一握りであるとわかっていたから、客観的に見て、俺は充分幸せなのだろう。

そんな時だった。
風も冷たい冬のある日、俺は付き合っていた彼女から突然別れを切り出された。それは何の前触れもない、あまりにも残酷すぎる宣告だった。

俺じゃない好きな人がいること。俺と付き合う前からその人が好きだったけど叶わないと諦めていたから俺と付き合ったこと。俺のことはきらいじゃないけどやっぱりその人が忘れられないこと。俺が真剣に想ってくれてるのがわかったからこのまま付き合い続けるのは俺に対し失礼だと思い、今回話をしようと決めたこと。別れたらちゃんとけじめとしてその人に想いを告げるつもりであること。

彼女は泣きながら話した。


告白は俺からだった。彼女とは同じテニス部で何かと関わる機会が多く、一生懸命練習に打ち込む姿を見ているうちに気になっていった。そして付き合い始めて早三ヶ月、俺達の関係は呆気なく終わりを迎えた。俺がクリスマスや正月どうやって二人で過ごそうか考えていた時に、彼女は俺と別れることを考えていたのだ。いや、俺と付き合っている時もずっと別の男のことを考えていたのかもしれない。

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