たとえばそれが始まりだったとして
隣を歩いてて緊張してるのが空気で伝わってくる。疲れないのかな。これから学校に着くまで緊張しっぱなしなのはかわいそうなので気を解そうと何か話すことにした。並んで歩いてて無言ていうのはね。私は気にならないけど。
「ね、桐原君。なんで家の前にいたの? あたし家の場所教えてないよね」
密かに気になっていたこと。
左を見上げて問う。
桐原君はあ、と声を漏らした。
「昨日遠藤達に聞いたんだ。今日、一緒に学校行こうと思ってさ」
「え、あたし遠藤にもみーこにも教えた覚えないんだけど」
「まじ? 訊いたら口頭で住所教えてくれたんだけどな」
「まじだよ。あ、そういえば今年年賀状書く時に住所交換し合ったっけ。でも普通覚えてないよねー」
「たしかに……。めちゃくちゃ記憶力いいのな。すごいな春日原さんの友達」
「てか住所聞いただけで家わかる桐原君もすごいと思うんですが」
「え、俺!? いや、俺はさ、ここらへんよく来るんだよ。知り合いの家があるからさ。だからちょっと詳しいの。春日原さんの家聞いた時もなんとなくあの辺だろうなってわかったし」
「へー、そうなんだ。桐原君のお家はどこなの? 中学は、違うからこの辺りじゃないよね」
「俺も市内だよ。春日原さんの家よりちょっと遠いかな」
そう言って桐原君は住んでいる地区を教えてくれた。
ちょっぴり気まずそうなのは、この後私から訊かれる内容を予測しているからだろう。
「えーと桐原君。いつも歩きなの? 今日は家まで歩いて来たの?」
桐原君の住んでいる所は、私の記憶が正しければ、学校から自転車で三十分程度の地区だった。位置的には、学校と桐原君の地区のちょうど真ん中くらいに私の家がある感じ。私は家から徒歩で三十分なのに対し桐原君は自転車で三十分。これは私のペースでだから、男の子でサッカー部の桐原君はそんなにかからないのかもしれない。
きっと桐原君は自転車通学だ。
歩けない距離じゃないけど、桐原君の地区くらい距離がある人はほとんど自転車通学だし、桐原君も例に漏れないだろう。部活があるなら尚更、通学に時間はかけたくないはずだから。