たとえばそれが始まりだったとして


「あんたさ、どうしたのよ」

遠藤の声がする。
気がついたら昼休みだった。
いつも以上に授業内容が頭に入らなかった。何度か指された気もするけど、よくわからない。指されていないかもしれない。口を開いた記憶がないもの。

四時間目が終わり昼休みになっても椅子に座って動かない私に、痺れを切らした遠藤が私の額に手を当てた。冷たくて気持ちよかった。

「熱、はないわね」

そりゃあそうだよ。どこも気持ち悪くないもん。

「ハルー? どうしたの?」

みーこも心配してくれている。だめだな、私昨日から心配かけてばっかりだ。
私は大丈夫だと言う代わりに口角を上げ笑ってみせた。
だけどそれを見て二人とも顔を引き吊らせる。上手く笑えてなかったみたいだ。

「あんた、昨日の昼休みから変よ。正確には、桐原修一に告白されてから、ね」

桐原君の名前が出た途端顔が強張る。
それを二人が見逃すはずもなく、遠藤とみーこは顔を見合わせて深刻そうに溜め息をついた。

「やっぱり桐原君関係なんだね」

「今日一緒に登校して来たってことは、桐原が今朝小春の家に行ったのね」

私は黙って頷く。

「それで、あんたは何をそんなに考え込んでるのよ」

「言ってみなよ。話すだけでも楽になるかもしれないよ」

二人の言葉が嬉しかった。
じわりじわり目に浮かんでくる。

「うぅー。遠藤ぉー、みーこぉー。あたしどうしようー」

もう、ひとりの頭ではパンクしそうだった。

私は流れ出る涙を拭うこともせずに話した。昨日桐原君に告白されて断ったけど諦められないと言われたこと、今朝明日から一緒に登校しようと誘われて雰囲気に呑まれて承諾しちゃったこと、だけど桐原君のためにははっきり断るべきだったと後悔してること、桐原君と居て思ったこと、それらを伝えた。涙ながらでちゃんと伝わったかわからないけどとにかく思ってることをすべて吐き出した。二人は時々相槌を打ちながら辛抱強く聞いてくれた。

「……わかんないよっ。う゛っ、ひっく、うぇー」


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