たとえばそれが始まりだったとして
鼻水も、涙も、止まらない。
涙はみーこがハンカチをあててくれて、遠藤は対鼻水用にポケティをくれた。これで咬めということなのだろう。そんな二人の優しさが嬉しくて、私は更に涙を流した。
しばらくして私が落ち着くと、見計らったように遠藤が口を開いた。
「にしても桐原のやつ、ストレートにぶつけすぎだっつの。一回ふられてるんだから少しは自重しなさいよ。小春の気持ちも考えないで」
少し苛立ったように言う。
「まあまあ遠藤。それだけ桐原君がハルを想ってるってことなんだよ。それで、ハル、その……」
みーこが語尾を濁す。
どうしたんだろう。
みーこはともかく、普段はっきり言うタイプの遠藤まで珍しく何処か躊躇している。
不思議に思っていると、二人はおずおずと口を割った。
「「ごめん」ね」
この二人に謝られるようなことをされた覚えはないんだけど。
「え、なに、が」
するとみーこが言いづらそうに話し始めた。
「今朝、桐原君ハルの家に行ったんだよね。それでね、もう知ってるかもしれないけど、桐原君にハルの家教えたのあたし達なの……」
そういえばそうだった。
「あたし達、昨日ハルが帰った後ハルと桐原君が付き合ったらいいねって話してたの。桐原君いい人って噂だったから」
「だけど、桐原があんたにふられて、理由はわからないけど小春が早退したのはそれが原因だってわかってたのに、その桐原にあんたの住所教えたのは軽率だった。反省してる」
遠藤とみーこは悲しそうに俯いた。
遠藤達までそんな顔しないで欲しい。
二人は悪くない。桐原君に住所教えたのは私を想ってのことだったってわかってるから。桐原君に住所を教えなければ一緒に登校しようと誘われることもなくて私がこんなに悩むこともなかったんじゃないかって自分を責めてるんだ。
たしかにその可能性もあったかもしれない。でも、最終的には私が自分で下したことだから。二人が自分を責める必要はないんだよ。
「もう、いいよ。桐原君のことは。あ、だけどね、知らない人に友達の個人情報を流出するのはどうかと思うよー。この情報社会でそんな危ないことしちゃいかんでしょ」
私の言葉に二人とも顔を上げて笑う。よかった。