たとえばそれが始まりだったとして
「ね、あとさあとさ。二人ともあたしの住所覚えてたんだね! 年賀状書くために交換しただけなのにさー。もしや住所覚えちゃうくらいあたしのこと好きなのー?」
からかい気味に言ってみれば、返って来たのはなんとも冷ややかな遠藤の言葉だった。
「は? あんた何言ってんのよ。去年住所教える時に自分で言ってたじゃない。『あたしん家の住所は五八、こはるの五八だからすぐに覚えられるでしょー』って」
「え」
「そうそう! なんかすごいハルが嬉しそうだったからあたし達覚えちゃったんだよね」
クスクス笑うみーこ。
そう、言われてみれば、そんな記憶もありますね、たしかに。
二人の記憶力を尊敬し私に対しての愛情を期待した自分が情けない。
「つーか小春、あんたそんな馬鹿なこと言ってる場合じゃないでしょう。どうすんのよ、桐原のこと」
「……やっぱり、ちゃんと断るよ。明日言ってみる」
「でもさー、ハルは桐原君といて楽しかったんでしょ? だったら無理に断る必要ないんじゃないかな。一緒に登校するくらいいいんじゃないの?」
「でも、変に期待されても困る……」
「まあ、みーこの言うことも一理あるわね」
遠藤まで何を言うか。
「でしょ? 桐原君がそうしたいって言うならいいじゃん」
「あんたは一度きっぱりふったんでしょ?」
遠藤の問いかけにゆっくり頷く。無理ってはっきり言ったからね。
「にもかかわらず諦められないって言ったのは桐原なんだから。一度ふられた相手に期待したってそれは桐原のせいでしょ。桐原だってそれをわかってないほど馬鹿じゃないわよ」
「そうだよ。だからハルが少しでも桐原君といたいって思うなら任せてみるのもいいかもしれないよ。まだ会って二日なんだから。そんなに早く結論出さなくてもいいと思うよ」
「とりあえず様子みたら? その結果好きになれなかったっていうならそれもしょうがない。桐原の力不足ね」
「それはさすがに桐原君がかわいそうだよ遠藤……」
「いいのかな、一緒に学校来ても」
「いいのいいの」
「じゃ、そういうことで、決まりね」
完全に心が晴れたわけじゃないけど、もやもやがなくなって軽くなっていた。