たとえばそれが始まりだったとして


身体にかかっていた力が抜けたせいか、お腹の虫がぐーと音をたてる。

「小春……」

はい、すみません。お腹が空いたんです。

「てゆうかさ、休み時間あと五分しかないんだけど……」

教室の時計を見たみーこが言いにくそうに報告をしてくれた。

「ごめんー。お昼食べらんないね」

「次の休み時間に急いで食べれば大丈夫だよ。ハルのほうが保たないんじゃない?」

「鳴らないように頑張ってお腹の筋肉引き締めるよ」

「あはは! 頑張ってねーハル」

にしても次の休み時間てことはみんながお喋りしているなかでご飯食べるのか。
それはまあ。
「目立っちゃうね」と零した私の台詞に遠藤はピシャリと言い放った。

「教室であんな号泣しておいて今更一時間遅れでお昼食べたくらいじゃ誰も何も言わないわよ」

仰る通りです成美様。




◇◆◇




「お帰りー、ストーカーくん。随分早いお帰りで」

席に着くなり前の席のヒロがこちらを振り向きもせずに嫌みを飛ばしてきた。

「うっせ。てかストーカーってなんだよ」

俺の返答にぱっと振り向いたと思ったらひとの顔を見てニヤニヤし始める。
悔しいがこいつ、顔はいいからそれでも様になっている。

「バッサリふられたのに? 女々しくも諦めらんないとか言っちゃって? 昨日の放課後だけじゃ飽き足らず朝から家まで押しかけて挙げ句の果てに一緒に登校しましょう、なんてストーカー以外のなんなのさ」

「――っ」

その通りすぎて言葉に詰まった。
これだから嫌なんだこいつは。

「それで、“愛しの春日原さん”には会えたわけ? お昼誘いに行ったんじゃなかったっけ?」

笑顔で嫌みを飛ばすヒロに俺は観念して口を割る。どうせこいつの前で嘘なんてつけないのだから。

「行ったよ。でも誘えなかった」

なんで、と言うヒロは自分から訊いておいてさして興味が無さそうだ。いつの間に用意したのかすでにパンを食べ始めている。
それを横目で見ながら、俺はぽつりと言った。

「彼女、泣いてた」

「は? まさか修一が泣かせたの?」

なんでそうなるんだよ。


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