たとえばそれが始まりだったとして


「春日原小春ちゃん……可愛いなあ」
「誰だそれ?」
「あれだろ、玖上と遠藤と一緒にいるぼけーっとした感じの子」
「へー可愛いの?」
「いや玖上と遠藤に比べたら全然」
「ははっ。見る目ないねー、君たち。滅茶苦茶可愛いのに」
「なに、告んの?」
「んー、そのうちね」
「ま適当に頑張れ」


会話を聞きながら、俺は本気でキレるかと思った。

まず男子A、勝手にちゃん付してんじゃねえ。次に男子B、彼女を知らないなんてありえねえ。そして男子C、彼女は可愛い、一緒にいる玖上や遠藤より何十倍も。かろうじて突っ込みを入れる余裕はあったけど、内心俺は焦りまくっていた。同時に、彼女の魅力に他のやつも気付いていたのだということにどうしようもない悔しさを感じていた。

いつからか一緒になって会話を聞いていたヒロに宥められてその場は落ち着いたけれど、そろそろ行動を起こさなければやばい、と危機感だけは消えなくて。その時、ふと廊下に目をやると開いているドアの間から友達と楽し気に話す彼女が見えて、俺は気がついたら教室を飛び出していた。

「ま、後悔したって今更だけどね」

傷心気味の俺にも容赦ないヒロの一言。
こういうやつだってわかってるけどさ、もう少し労るとか優しくするとかあるだろう。

「はあ。そこのヘタレ。一緒に学校行く約束しちゃったんでしょ? 俺だったらその時間フル用して惚れさせるけどね。泣かせたらその分笑わせてあげればいい。修一はふられたんだよ、これ以上どこに落ちるのさ。後悔したって事実は変わらない」

前言撤回、ヒロはそういうやつだった。
キツいことも言うけど、それはそれだけ真剣に相手を想っているという証拠。どうでもいい奴にはどうでもいい対応を、無関心な奴は相手にさえしないだろうから。

「そう、だよな。考えたって栓のないことだもんな。俺、頑張るわ。絶対彼女を笑顔にしてみせる。ありがとな、ヒロ」

そうヒロに笑顔を見せる。

単純、とヒロが呟いたのも知らずに俺は闘志を燃やしていた。

「あ、そうだ修一、そもそもなんでふられたのに諦めらんないとか言っちゃったわけ。その時点でゲームオーバー、ふつうは諦めるでしょ」

それは俺も少なからず引っ掛かっていることだった。


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