たとえばそれが始まりだったとして

経過―翌々日―



「おはよう、春日原さん」

さらに次の日。
昨日約束した通り、桐原君は今日も爽やかな笑顔で我が家の玄関先に立っていた。もちろん、傍らには自転車を携えて。

「おはよう、桐原君」

挨拶を返し、鍵を閉めて鞄にしまう。

「よし、行こっか」

そうして私達は歩き出した。




「ね、桐原君今日は何時に家に来たの? もしかして結構待ったりした?」

「うん? いや、春日原さんが出てくる五分くらい前だったかな。ほら、春日原さんの友達に住所聞いた時一緒に教えてもらったんだよ。だいたいいつも八時前に家を出るって。俺はそれに合わせて家を出てくるってわけ。だから、気にしなくて平気だよ」

「そ、そっか。うーん、じゃあ明日からはさ、家着いたら呼び鈴か自転車のベル鳴らしてよ。ギリギリで支度してるわけじゃないから、多分すぐ出られるよ。桐原君待たせるの悪いしね」

「え、いいの? 朝から家の人の迷惑にならない?」

「うん、大丈夫だよー。その時間じゃあたししかいないからね」

「では、お言葉に甘えて。どうもです」

「いえいえー。お気になさらずに」

そう言って二人でクスクス笑う。

昨日のみーこと遠藤の助言のおかげで、私はだいぶ楽になった。取っ掛かりが外れたような、重石がとれたような、解放感がある。
心に余裕が生まれた私は、とりあえず、桐原君を友達だと思って接してみようと考えたのだ。

桐原君をひとりの人として、ちゃんとみてみようという気になった。
もともと人見知りする質ではないので、この作戦は効果絶大だった。
桐原君も桐原君でどこかすっきりした様子で、昨日に比べて緊張もほとんどしてないみたいだ。
普通に話して笑いもする。
昨日とは打って変わった気持ちで桐原君と歩く時間を楽しむことができた。

そしてひとつ気付いたことがある。

桐原君は歩くスピードを私に合わせてくれている。
桐原君と私じゃあどう考えても歩調は合わないのに、桐原君は何も言わずに同じペースで隣を歩いてくれる。自転車をおしながらだから、普通に歩くよりも合わせやすいのかもしれない。そこにどんな理由があるにせよ、私は素直に嬉しいと感じた。


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