たとえばそれが始まりだったとして


「寝坊するにしてもさ、小春。あんた、髪の毛くらいはちゃんとしなさいよ、頭ヤバい」

私の跳ねた髪を見た遠藤が呆れたように言う。

「せめて寝癖くらいはねー。ハルは肌きれいだからすっぴんでも全然OKだけど!」

「羨ましい」とみーこは自分の顔に手をあてる。

「そんなこと言ったって。ちゃんととかしてきたよ。でも時間ないし。遅刻はやだし。これでも朝ご飯犠牲にしたんだよー。お腹すいたー」

そう言って、ぐてんと机に突っ伏してみた。

「まったく、そんなだから彼氏のひとりもできないのよ、あんたは」

「べつにいらないよ。彼氏は食べられないもん」

「ほんっと食べるの好きだよね、ハル」

……違うよ。
食べるのは好きだけど、そうじゃなくて。
仮に食べられたとしても彼氏がほしいとはきっと思わない。そもそも私に人食の嗜好はないんだけど。

「はぁ。ま、次の休み時間まで我慢しなさい。パンあげるから。お昼用なんだけどね、どうせあんたも購買でしょ。あたしも行く」

「うあー。遠藤大好き!」

「はいはい」

「ついでにトイレにも行くんだよ! 寝癖直しあるから、行こ? 流石にそのままじゃ、ハルも気になるでしょ?」

「はーい」

そこでチャイムが鳴り、同時にガラリと引き戸を開け担任が入ってくる。

「「じゃあね」」

遠藤とみーこが自分の席に戻って行く。
私はそれを呼び止めた。

「遠藤! みーこ! ありがとう」

私の声に、二人とも振り返って微笑んでくれた。

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