たとえばそれが始まりだったとして
「こほん、冗談はこれ位にして、ハル」
「え、冗談だったの」
「当たり前じゃない。何言ってんのよ」
なんか二人と友達やってく自信がそこはかとなくゼロに近づいたよ。
自称冗談を言って気がすんだのか遠藤とみーこはやっとこさお弁当に手をつけ始めた。
「ま、じっくり考えてそれで答えを出せばいいよ」
「考えて?」
「あんたの場合考え過ぎも禁物だけどね。自分がそう思ったらきちんと気持ちに従いなさいよ」
「そうそう、逆らっちゃ駄目だめだよ」
「……?」
「そのうちわかるわよ」
よくわからないけどとりあえず頷いておこう。
「ああ! そうだ! 遠藤、あんぱんは!?」
思い出して叫ぶと、遠藤はなんとも冷ややかな目を向けてきた。
だけどね、それに臆する私ではないのだよ。もう慣れたからね。
「交換条件! あんぱん!」
「あーもう! わかったから、ほら」
うざったそうにあんぱんを渡す遠藤。私は喜んで受け取る。
「へへへ、ご馳走さまです」
お弁当も食べかけのまま、私は早速袋を開けてあんぱんを頬張る。
「おいしー」
この生地のふんわり感と粒あんのしつこくない甘さが絶妙だよ。
「小春、あたしはあんたがあんぱん一個で買収されないか心配だわ」
遠藤が何か言っていたけれど、あんぱんに夢中な私の耳には届かなかった。
「ねー、ハル」
そういえばあんぱんの件からみーこの声がしなかったな、と思いみーこに視線を移すと、何やら真面目な顔で携帯をいじっていた。
みーこの真面目な顔は滅多にお目にかかれる品じゃない。私が一週間一度もあんぱんを口にしないってくらい珍しいのだ。
普段温厚な人が怒ると恐いのと同じ原理で、だからみーこの真剣な表情を目にして私は変に緊張してしまう。呑気にあんぱん食べてる自分が申し訳なくすら感じる。それは遠藤も同じようで、ピタリとお箸を止めてじっとみーこの顔を窺っていた。
「みーこ、どうしたの?」