たとえばそれが始まりだったとして
ごくり唾を飲み込む音が脳に伝わる。
みーこは携帯に目を向けたまま無表情に言う。
「うん、あのさー、二人とも、三組の眞鍋芳之って知ってる?」
マナベヨシユキ。
いきなり出てきた名前に無意識に遠藤のほうを見ると遠藤もこちらを向いていたようで私達は自然と顔を見合わせることとなる。
遠藤の目が細められて僅かに眉間に皺が寄る。これは困惑の表情だ。つまりは知らないという事。それに私も軽く頷いて再びみーこに視線を移すと、顔を上げたみーこと視線がぶつかった。
「知らないよー? その何とかって人」
「あたしも知らないわよ。みーこ、誰なのそいつ」
早速そいつ呼ばわりか遠藤。
そう思ったが私も遠藤同様その人が誰なのか知りたいので水は差さないでおく。
「うーん、実はね、その眞鍋くんがハルのアドを教えてほしいみたいなんだ」
「あど? あど、アドバイス?」
「余計なボケかましてんじゃないわよ。その眞鍋って、どういうやつなの?」
「それがあたしも知らないんだよね。一応あたしの友達の友達が眞鍋くんてことになるんだけど、実際会ったことないしどんな人かまではちょっと……」
「は? つまり小春のアドを知りたいのは眞鍋本人なのに眞鍋の友達がみーこに小春のアドを訊いてきたと」
「へー。何で直接訊いて来ないのかな」
「今回ばかりは小春の言うとおりね。知りたいなら直接小春んとこ来なさいよ」
「うん、あたしも同意見。実は訊かれてちょっと困ってた」
あはは、と苦笑気味のみーこ。
遠藤の発言はスルーですよもう。
「じゃあ無理って送っとくね」
すぐに物凄い速さでボタンを連打するみーこ。今時の女子高生って感じだ。
「って、みーこ、ちょっと待った!」
思わず華麗なボタン操作に見入ってしまった。
みーこはというと驚きながら若干引いている様子。
そりゃあね、いきなり上半身乗り出して待ったかけて来たらね、うん。
遠藤からは冷たい視線を感じるし。
「ハル?」
戸惑いながらそれでも心配そうに気遣ってくれるみーこは優しいと思う。その優しさが今は切ないけど。
「えー、えーとね、みーこ」
大人しく身を戻してみーこに言う。
「えっと、いいよ」