たとえばそれが始まりだったとして


「ごめんハル、なにが?」

「小春、会話をしなさい」

「……。その何とかくんにアドレス教えてもいいよ」

終わったとばかり思っていた話題を引っ張り出したせいか二人とも訳が分からないといった表情で私を見る。

「いや、だからね、みーこはアドレス訊いて来た子とは友達なんだよね、だから、いいよ」

「ハル、別に気にしなくていんだよ? 確かにその子とは友達だけど、それとこれとは話が別」

「私のアドレスのひとつやふたつ出し惜しみする程貴重なものじゃあないよ」

「ふたつって、あんたサブアドなんて持ってないいじゃない」

「ハル、断ったからってあたしとその子の仲がどうなるわけでもないし、仮にどうなったとしてもハルには関係ないことなんだよ。それは相手が悪いんだから」

「みーこ、駄目だよ。アドレス、ちゃんと教えて」

「だって、どんな人かもわかんないのにそんな」

「大丈夫。みーこの友達の友達なら悪い人じゃないよ」

「あんたいつから人類皆兄弟な思想抱いてんのよ」

「だから教えるんだよ。わかった?」

みーこは時々黒いけど、基本的には押しに弱いのだ。だからもう一押し。
私はびしっと言い切る。

「心配ご無用。犯罪に巻き込まれそうになったらアドレス変えればいいんだから!」

達成感溢れる私に対して二人の反応は芳しくない。今ので言いくるめられたと思ったんだけどなあ。

「みーこ、あんたが折れるしかないみたいね」

「だねー。ハルは変に頑固なとこあるから」

「ま、いざとなったら小春の言うとおりアド変えるでも携帯買い換えるでもさせれば平気なんじゃない?」

「あはは、うん。ハルの危機感はちょっとズレてるけどねー」

みーこは困ったように小さく笑ってるけど、納得してくれたみたいだ。

「じゃ、みーこよろしくね」

「了ー解。ありがとねハル」

「あんたがよろしくしてどうするのよ」

呆れたようにため息をつく遠藤、それに可笑しそうに破顔するみーこ、私はなんだか嬉しくてあんぱんを食べながら始終ニコニコしていたのだった。


このアドレスの人物が今後私の気持ちに決定的な影響を及ぼすことになるとも知らずに。


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