たとえばそれが始まりだったとして
なのに今朝の彼女といえば、朝一番に交わす挨拶には元気がなく、時々眠そうな目をこすり、歩くペースがのんびりならば足取りもどこか覚束ないと言った様子で。
寝不足なのだろう。
誰にだってそういう時はあるだろうし、気にかけることではないのかもしれない。仮にヒロが同じ状態でも気にも留めないだろうし。彼女だから。些細なことでも、気になるんだ。
とりあえず、授業が終わったら、様子を見に行ってみよう。大したことじゃなければそれに越したことはない。あまり深刻に考えず、軽い気持ちで会いに行けばいい。
そして授業終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
「あれ? 修一どこか行くの?」
クラスメート達が忙しなく昼食の準備に取り掛かるなか、弁当バッグを片手に席を立つ俺にいち早く気付いたヒロ。
「ん、ちょっとな」
曖昧な返答に何かを察したらしいヒロは途端にニヤリとし何も言わずじとーっと俺を見つめてくる。いつにもまして鋭いやつだ。
俺は居心地の悪さを感じ、逃げるように視線をそらしてため息を零した。
行動思考全てこいつに見透かされるんじゃないかと錯覚しそうになる。さすがにそれは有り得ないとわかっているが、自分を理解してくれているのだと前向きに捉えるべきか自分のわかりやすさを見直すべきか悩んでしまうのも否めないはずだ。
「隣行ってくる。多分ぎりぎりまで戻らない」
ヒロを一瞥し感情を込めずにそう言えば、ヒロは面白そうににんまりと笑って一言了解、とだけ口にし前へ身体を戻した。
行っていいということだろう。
おそらくこいつと関わりを持っている限り、何かにつけて俺は溜息を吐かずにはいられないのだろう。
もはや怒る気にもなれず、ひとりお昼を楽しむヒロを残し俺はさっさと隣の教室へと足を向けたのだった。
と言っても所詮は隣の教室、一分と掛からずに辿り着く。
開きっぱなしのドアから教室の様子を窺うと、まあどこも同じようなもので騒がしく昼休みを迎えていた。