たとえばそれが始まりだったとして
以前彼女の教室を訪れた時の記憶を頼りに彼女の席を確認する。たしか真ん中の列の後方だ。
するとそこには以前と同じように机には彼女が、その周りには適当な席に座る女子二名の姿があった。以前と違うのは彼女は泣いているのではなく、そう、それは先ほどまで目にしていた光景と酷似していて、詰まるところ、彼女はだらんと机に突っ伏していたのだった。
寝ているのかな。そう思いしげしげと彼女を眺めていると
「あれ? 桐原くんだー」
俺の存在に気付いたらしい玖上がぱっと目を輝かせて声を上げた。それにつられ遠藤も顔を上げ目だけをこちらに向けてくる。
他の教室というのはどうにも入りにくいものがある。本来自分がいるべき空間ではないからか後ろめたさが生じる。だから正直玖上達が気付いてくれて助かった。俺は気後れすることなく教室に足を踏み入れることができた。
彼女の席まで足を進めると、何が楽しいのかニコニコ顔の玖上と、対照的に何が気に入らないのか不機嫌そうに口を結んだ遠藤が無言で俺に視線を送ってきた。思わず後退りしそうになったが、そこは俺も男なわけで、ぐっと踏ん張りなんとか笑みをつくる。
「えっと、玖上に遠藤。その節はどうも。色々助かったわ」
その節とは言わずもがな、いつぞやの放課後彼女の住所その他諸々を教えてもらった件である。
「いらっしゃーい桐原君。どういたしまして」
陽気だなあと思う。
頭のてっぺんのお団子が印象的な玖上……下の名前はたしか都子。彼女の話にみーこの名でよく登場する、彼女と親しい友人の一人。
「今度はお昼のお誘い、ってわけね」
続いてきりっとした目に派手目な顔立ちの遠藤……遠藤成美。理由は不明だが、呼称は彼女によると苗字まんまで遠藤。こちらも彼女が親しくしている友人だ。
俺は彼女以外の女子は皆似たり寄ったりに見えてしまうため、客観的な容姿の良悪は判断がつかない。他の男どもに言わせると、この彼女の友人二人は可愛い・美人らしい。可愛いが玖上で美人が遠藤だろう。それくらいはまあわかる。他クラスの奴が噂するだけあって、二人ともモテるのだろうな。前々から彼女を見ていた俺はよく視界に入るなあくらいの認識しかなく、名前を知ったのもつい最近、彼女と知り合ってからだった。