たとえばそれが始まりだったとして
かと言って彼女の友人がどうであれ、興味が湧くことはない。俺が今何よりも理解したいと思うのはただひとり。彼女を見るので精一杯なのだから。
そんなことを頭の隅で考えながら、俺は当初の目的を遂行するため切り出しにかかる。
「春日原さん寝てるの?」
視線を下げる。腕に額を乗せ、呼吸に合わせて微かに肩が上下するその姿は、訊くまでもなく眠っている証拠。耳をすませば聴こえてくるすーすーという寝息が微笑ましくて、俺は無意識に頬が緩む。
「あんた何しに来たのよ。小春の寝顔拝みに来たわけじゃあないでしょ」
呆れたように遠藤が言う。
俺は慌てて顔を引き締めた。
そうだ。今は寝顔を見ていたいとかそんな邪念は振り払わねば。
「えっと、お昼一緒に食べようと思ったんだけど。起きない?」
「うーん、今日はハル珍しく爆睡だからねー。多分起きないよ」
「悪いけど、授業始まるまで起こす気ないから。あきらめて帰って頂戴。小春にはあんたが来たってことだけ伝えておくわ」
しっしっと追い払う遠藤。もう俺なんか眼中にないのかさっさと背を向け弁当にありついている。
って、それじゃあ困るんだ。
「え、ちょっと!」
「なによ五月蠅いわね。邪魔よ邪魔。用が済んだならさっさと自分の教室に帰りなさいよ」
「俺、春日原さんに話があるんだけど」
「そんなの知らないわよ。明日の朝にはどうせ会えるんだからそれまで我慢しなさい」
「いや、それじゃ遅いんだよ。今日聞いておきたいんだ」
「あんたに小春を起こす権限があるわけ? 睡眠妨害は立派な犯罪よ」
「そんな」
「後で電話でもメールでもすればいいじゃない。とにかく今は無理なの」
「電話? メール?」
刹那、脳内にて雷が激しい音を立てて落ちてきた。
「桐原君?」
「しら、ない」
「え?」
「俺、春日原さんのアドレスも番号も聞いてない」
「は」
「桐原君、ハルから教えてもらってないんだね」