たとえばそれが始まりだったとして
つまり玖上は春日原さんの負担になる事はするなと言いたいのか。
「うん、そういうことなら仕方ないね。我慢することにするよ」
仕方ないというふうに薄く微笑めば、玖上は途端安心ように息を吐き出す。
些か残念ではあるけれど。
必要以上は控えるしかないだろう。彼女に迷惑をかけてまで連絡をとりたいわけじゃない。
即了承した俺に気を良くした玖上はニコニコと饒舌に話し出す。
「ハルってばね、メールの返信ひとつにも十分かかるんだよ。面倒くさがって絵文字も使わないし文末は必ず句点なの! 家に帰ったら携帯放置で寝る前に確認するだけみたいだよ、しかも始終マナーモードだから着信も気づかないし!」
玖上の言葉に唖然とした。
まさか彼女がアナログ人間だったとは。
驚いた反面、妙に彼女らしいと納得する自分がいる。らしいと言えるほど彼女を知っているわけではないけれど、自分の中の彼女のイメージと玖む上の話が結び付くのだ。逆に超高速でボタンをおす彼女は想像し難い。
そんな俺を尻目に玖上は尚も彼女について語る。
「ハル放課後は真っ直ぐ帰るからって、あたし達と仲良くなるまでは学校にも携帯持って来てなかったんだよねー。さすがにそれじゃ携帯の意味ないから学校には持って来させるようにしたけどさー。知り合ったときはびっくりしたよ! 花の女子高生が携帯不携帯なんて。あ、あたしとハルと遠藤、皆中学は別なんだけど去年同じクラスでね」
話が進むにつれ玖上の勢いが増してる気がする。身を乗り出して熱弁を奮う玖上の目にもはや俺は映っていない。彼女の話を聞けるのは非常にありがたいのだが。さっきまでしおれていた姿と同じ人物なのか疑わしい。玖上とはテンションの落差がとてつもなく激しい人物のようだ。
そして今の俺は玖上の高テンションに付き合っていられる器量はない。今朝の彼女が眠そうだった理由はわかったが、もうひとつ、どうしても確認しなければならないことがあるのだ。それを思うと、同時に悪い予感が離れない。しかし聞くまでは心から安心することができない。この予感を早く拭いたい。
「――遠藤」
したがって、俺は会話の標的を目の前の人物に移す。