たとえばそれが始まりだったとして


◇◆◇


「ふぁー」

チャイムと同時に出たのは大きな欠伸。本日の授業はこれにて終了だ。解放感とともに授業中ずっと我慢していた欠伸が盛大に放たれる。
眠いの一言に尽きる。
これでも授業は真面目に聞いているのだ。基本睡眠は家でしっかりとるタイプなので、どんなにつまらない授業でも眠くなる事はほとんどない。昨日は訳あって充分睡眠をとる事が出来なかったけれど、授業中の居眠りはしたくない。

あとは簡単にHRを行えば家に帰れる。そうしたら思う存分寝ればいい。今日はお母さんもいないし、咎められる事なく睡眠を堪能出来る。

帰る準備万全で解散を待っていると。

「英語係ー! 滝先生がHR終わったら今日提出の課題職員室まで持って来いとー! 遅れたら連帯でクラス全員が減点らしいぞー 」

間の抜けた担任の声により、私の野望は先延ばしが決定した。


日が沈むにはまだだいぶ早い時間。
無事、係の仕事を終えた私は、まだ生徒の影が残る校舎を出て校門へ続く道をとぼとぼと歩いていた。同じ係の子は、これからデートらしく職員室を出るなり猛スピードで帰って行った。

しかし我ながら不覚だった。
睡眠のために早く帰りたいと思っていたのに、そう思わせた原因である課題の存在を忘れるとは。

さらに英語科担当の滝先生。今日は授業だってあったのにわざわざ放課後集めさせるなんて。課題が終わらなかった生徒のために放課後まで執行猶予を与えたのだろうが、係である私には時間外労働もいいところだ。

なんて。
八つ当たりしたくなるのも眠いからで。結局家に帰るしか解決法はない。

ふいに、視線を巡らせてみれば視界に入るその人。
遠目でも判別する事が出来たのは、毎朝その姿を目に映しているからだろう。

桐原君は練習用のユニフォームを着て、グラウンドを走っていた。ひたすらにボールを追いかけて。

サッカー知識の貧しい私は、キーパー以外手をつかったら駄目とか、相手のゴールにボールを入れたら得点になるとか、そんな当たり前のルールしかわからない。桐原君がどのポジションにいるのかすら理解していない。


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