たとえばそれが始まりだったとして


でも、必死になってボールを追い、ドリブルで敵をかわして素早く味方にパスを送る。その姿は、とてつもなく格好良いと思った。

道の途中でぼうっと突っ立って見入っていると、甲高いホイッスルの音が耳に届いた。試合終了の合図だろう。コートにいたユニフォーム姿のひと達が、動きをやめ、コートの中心へ集まっていく。

桐原君はタオルで汗を拭きながら、なにやら部員の男子と笑い合っている。顔ははっきりと見えないけど、雰囲気がとても楽し気だった。

顧問らしき先生が何かを言うと、皆先生のもとへ駆け寄り、話を聞いている様子。

それを機に、私は止めていた足を再び動かした。頭の中では、先ほどの遠藤とみーこの台詞を思い出していた。


『ね、ハルー。昼休みね、桐原君来たんだよー』

『あんたが今朝、足もふらつく程眠そうだったから気にしてわざわざ様子見に来たらしいわ』

『でもハルが寝てたから残念がってたなー』

『ついでにアドレスと番号も教えておいたから。必要だったら何か連絡来るんじゃない?』

職員室に行く前、今日の天気は晴れだと言うような口振りでさらりと告げられた事実。

私は数秒、口を開けたまま固まった。
まず思ったのが、なんで起こしてくれなかったのだと言う事で。それに対し異議を申し立てなかったのは、爆睡してる自分を起こすのが忍びなかったのだろうと安易に想像がついたからだった。
次に思ったのは、なんでもっと早く教えてくれなかったのだと言う事。しかしこれもまた、休み時間の度に机に突っ伏していた自分が口に出来る事ではない。

一言、『ごめんね』と『ありがとう』を言いたかったのに。
せめてもの代わりに、心の中で部活頑張ってと、桐原君にエールを送った。

家に着いたら一眠りする前に、遠藤たちに教えてもらったアドレスでメールを送ろうと密かに決心して、私は家路を急いだ。


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