たとえばそれが始まりだったとして


なんとも、当たらずとも遠からず。意外に鋭いな。じっと俺の返答を待つ矢部に少しだけ笑いが漏れた。

「いや、彼女じゃないよ。俺の一方通行ということで」

「はっ!?」

ここで堂々と“彼女”だと言えたらどんなに幸せだろう。今はそれが適わない。矢部はというと、これでもかというくらい目を丸くして俺を見ていた。そんな矢部を無視して歩き出し彼女に送るメールを打ち始める。

「ちょっと待てよ! 桐原が片思い!? 相手はいったい何処の何奴だよ!? てか告白を断る理由が好きな子がいるからってのは本当だったのか……」

矢部がひとりでぶつぶつ言っているがもちろん無視だ。

「送信完了」

二つ折りの携帯を片手でぱかりと閉じる。

「なあ、だれなんだよー。教えてくれたっていいだろう。女の子泣かせの桐原が好きな子気になるんだよー」

「なんでお前の好奇心に付き合わなきゃいけないんだ。ひとの片思いを知って笑う気か」

「そんな! 俺は純粋にお前の恋を応援」

「結構だ。これは俺と彼女の問題だ。ひとの恋愛に他人が首を突っ込むな」

「べつにそこまで頑なにならなくても。うーん年上か? いや、後輩という線もあるな。よし、じゃあせめて学年クラスだけでも教えてくれ。教えてくれたらそれ以上は詮索しないと誓うぜ」

きっぱりと言い切る矢部を横目で窺う。こう見えてサッカーに関しては真面目なやつだし、嘘は言わないだろう。まあ、特に隠す必要もないしこのまま質問攻めをくらうよりは教えて大人しくしてもらったほうが得策か。

「二年三組」

「なんだタメか……って三組!? 俺のクラスじゃん。え、まじか!」

想像通りの反応だな矢部よ。
以降隣で百面相を繰り広げる矢部を徹底的に無視して駐輪場へと向かった。




「しかしなー、俺はお前が片思いっつーのが信じられないわ。その子とどういう関係なのか知らないけどメールするくらいの仲ではあるんだろー?」

矢部、お前は俺を何だと思っているんだ。しかもそのメールも今日が初めてなんだけどな。というか、

「矢部、詮索はしない約束なんじゃないのかよ?」

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