たとえばそれが始まりだったとして
それだけで、眞鍋が話しかけてきた目的を理解した。馴れ馴れしい“小春ちゃん”という呼び方に一瞬殺意を抱いたが、それよりも。
「それを俺に言って、何がしたいんだ?」
「べつに? 宣戦布告ってやつ?」
「……」
どうにも腑に落ちない。
俺に向けられた敵愾心も俺を見る目も、どこか違和感がある。しかし違和感の正体を考えるより先に口が開いていた。
「眞鍋、お前本当に彼女が好きなのか?」
口にして、何を言ってるんだと思った。
俺の問いに、僅かに目を開くとふっと口元を上げ無表情を崩した。が、その笑顔から真意を読み取る事は出来ない。
「さあね」
てっきり肯定の言葉が出ると予想していた俺は眞鍋の返答に困惑した。
当の眞鍋はそれだけ言うと俺に追及する隙も与えず静かに去って行った。
ひとの頭を混乱させておいてさっさと帰るとは。ため息を吐きたくなった。もう帰ろう。此処にいては気が滅入る。
けれども俺の心情を理解してくれないうえ、興奮して舌をまくし立てる脳天気な人物がひとり、此処にいた。
「桐原の好きな子って春日原さんだったのか! しかも今のってテニス部の眞鍋だろ!? どういう事だ!? え、もしや三角関係勃発!?」
「矢部、お前まだいたのか」
「ばっちり! 心配するな、誰にも言ったりしねーよ」
「はぁ」
「ま、頑張れ!」
頭が痛い……。
『桐原君、ごめんね? 直接ではないんだけど、眞鍋君にハルのアドレス教えたのあたしなんだ。ハルたち何日か前からメールしてるんだよね。で、でも、あたしは桐原君を応援してるから!』
昼休み、そう俺に告げた玖上が今はちょっとだけ恨めしかった。
そして、眞鍋の言葉が実行されたのは、それから三日が経った日の事だった。