たとえばそれが始まりだったとして
雨の金曜日
その日は朝から雨だった。
天気予報によると、夜まで降り続くらしく、今日は一日雨でしょうとのこと。
太陽が出ていないから自然な明るさがない。朝から白熱灯の灯りは気持ち悪い。不健康だ。
「あら小春、今日は早いのね」
ソファにもたれてぼうっとテレビを見ていると、ドアの開く音とともにそんな声が耳に入る。
「おはよう。雨だからね」
私は顔だけそちらに向け答えになっていない答えを返す。
「おはよう。って、真希はまだそんなところにいるのね……」
お母さんは困ったように短くため息を吐く。視線の先は、テーブル。正しくは、テーブルに突っ伏して狸寝入りをしているお姉ちゃん。
「ね、お姉ちゃんどうしたの。起きて来たらもうこうだったんだけど」
一応小声にして訊いてみる。
朝お姉ちゃんと会うだけでも珍しいのに、そのお姉ちゃんが先ほどからテーブルに突っ伏したままぴくりとも動かないのだ。異常としかいえない。
お母さんはちらっとお姉ちゃんを見て、私の耳もとで声を潜めて言った。
「それがね、夜中に帰って来たと思ったらテーブルにしがみついてそれから離れないの。何度も注意したんだけど全然反応なくって。うんともすんとも言わないから、和巳くんと喧嘩でもしたのって試しに訊いてみたら物凄い動揺してね。冗談のつもりだったんだけど悪いこと訊いちゃったわ」
肩を落とすお母さんを視界に入れながらも、私の目はお姉ちゃんに釘付けだった。
お姉ちゃんが喧嘩だなんて。
いや、喧嘩自体は珍しいことじゃない。彼氏さん、和巳さんとはお互い言いたいことをズバズバ言っちゃう関係だし、軽い口論もよくあると思う。結局はどちらかが折れて、割合は圧倒的に和巳さんが多いけど、そこに険悪な雰囲気はなかった。
和巳さんとは、高校を卒業してから付き合い始めたから、期間にして二年ちょっと。