たとえばそれが始まりだったとして
高校ではたしか同じクラスで、当時お姉ちゃんには付き合っていた人がいたのだけど、和巳さんには前々からアプローチされていたらしい。それで当時付き合っていた人があまりにもルーズで、それに嫌気が差していたらしいお姉ちゃんは、高校卒業を機にその人と別れ、和巳さんと付き合うことにしたらしいのだ。全部お姉ちゃんから聞いた話でしかないけど。
時々だけどお姉ちゃんと和巳さんと私、三人で出掛けることもある。
私としては二人の間に入るのは正直気が引ける。いくら片方が姉妹とはいえ誰が好き好んでカップルと三人でいたいと思うのか。お姉ちゃんとしては、和巳さんと私に仲良くなってもらいたいみたいで、和巳さんもいい人だから、嫌というほどでもないのだけど。
なんだかんだでお姉ちゃんと和巳さんはお似合いなんだ。二人を見てると私も楽しい。
それなのに、夜中にも拘わらず家に帰って来てしまうほどの喧嘩をしたというのが、信じられなかった。驚いたし、なによりショックだった。このままお姉ちゃんたちが別れたらどうしよう。
言いようのない不安が襲って、窓越しに聴こえる一定の雨の音だけが全身を支配していた。
「――小春?」
名前を呼ぶ声で、はっと我に返る。
「お母さん、もう行くね。心配だけど、真希はそっとしておこう」
不安が顔に出ていたのかな。
お母さんは優しく微笑む。やっぱり“お母さん”なんだなあと思った。
私は無言で頷いて、仕事へ行くお母さんを見送った。
さて、お母さんがいなくなったということは、
「……」
「なに、お姉ちゃん」
この人とふたりきりということで。
お母さんが出て行ったリビングのドアを見つめる私の背に痛いくらいの視線が突き刺さる。
「――はぁ。お姉ちゃん、大丈夫?」
ソファから立ち上がりてくてくテーブルに近づく。すると案の定突っ伏した状態のお姉ちゃんが腕の隙間からじとっとこちらを見ていて。思わずたじろぎそうになったけど、その瞳は見るにたえないほど弱々しかった。
かける言葉を失う。