たとえばそれが始まりだったとして


なんだろう。

私今、物凄くいやな気分になってる。桐原君に人気があることなんて遠藤みーこ情報でわかっていたし、実際桐原君の人柄にふれて私も納得した。
人気のある桐原君に友達が大勢いるのは当たり前で、そのなかに女の子がいたって当然のことなのに。名前で呼ばれるくらい親しい子がいたって不思議じゃないのに。こうして桐原君が女の子と笑い合ってるのが嫌なんて。その笑顔を自分以外に向けてほしくないなんて。悲しいような、苦しいような。こんな気持ち、知らない。嫌だなんて、そんなことを思う権利ないのに。

「春日原さん? 具合悪い?」

本日何度目かの、自分を呼ぶ声。
そこに女の子の姿はなくて、いたのは心配そうに眉を下げてこちらを見つめる彼だけだった。

「あ、ううん、大丈夫! ごめんね。あの、さっきの子たちは?」

「良かった。さっきのは同じクラスの子だよ。ごめんね、うるさかった?」

「ううん、全然! 桐原君友達多いねー」

「そうかな? ってゆうか、今のは友達というかそうじゃないというか」

後半はよく聞こえなかった。
私はただ笑っていた。

「あ、そうだ。春日原さん、放課後予定ある?」

「雨だからね、予定の入れようもないさ」

「じゃあさ、一緒に帰らない?」

「え、桐原君部活は?」

「この雨だし、多分休みだよ。自主練はあるかもしれないけど、グラウンドも体育館も使えないと思うから、今日は帰るよ」

「へえ。うん、じゃあ一緒に帰ろう」

「ありがとう! じゃ、放課後教室に行くね」

「うん、待ってるね」

私は必死に笑みをつくった。モヤモヤの正体も理由もわからなくて、油断したら顔に出てしまいそうで怖かった。

桐原君との会話も、ほとんど頭に入っては来なかった。


< 58 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop