たとえばそれが始まりだったとして
なんだろう。
私今、物凄くいやな気分になってる。桐原君に人気があることなんて遠藤みーこ情報でわかっていたし、実際桐原君の人柄にふれて私も納得した。
人気のある桐原君に友達が大勢いるのは当たり前で、そのなかに女の子がいたって当然のことなのに。名前で呼ばれるくらい親しい子がいたって不思議じゃないのに。こうして桐原君が女の子と笑い合ってるのが嫌なんて。その笑顔を自分以外に向けてほしくないなんて。悲しいような、苦しいような。こんな気持ち、知らない。嫌だなんて、そんなことを思う権利ないのに。
「春日原さん? 具合悪い?」
本日何度目かの、自分を呼ぶ声。
そこに女の子の姿はなくて、いたのは心配そうに眉を下げてこちらを見つめる彼だけだった。
「あ、ううん、大丈夫! ごめんね。あの、さっきの子たちは?」
「良かった。さっきのは同じクラスの子だよ。ごめんね、うるさかった?」
「ううん、全然! 桐原君友達多いねー」
「そうかな? ってゆうか、今のは友達というかそうじゃないというか」
後半はよく聞こえなかった。
私はただ笑っていた。
「あ、そうだ。春日原さん、放課後予定ある?」
「雨だからね、予定の入れようもないさ」
「じゃあさ、一緒に帰らない?」
「え、桐原君部活は?」
「この雨だし、多分休みだよ。自主練はあるかもしれないけど、グラウンドも体育館も使えないと思うから、今日は帰るよ」
「へえ。うん、じゃあ一緒に帰ろう」
「ありがとう! じゃ、放課後教室に行くね」
「うん、待ってるね」
私は必死に笑みをつくった。モヤモヤの正体も理由もわからなくて、油断したら顔に出てしまいそうで怖かった。
桐原君との会話も、ほとんど頭に入っては来なかった。