たとえばそれが始まりだったとして


「……付き合うって、なに? 好きって? あたしたち、今日が初対面だよね。そんなんで、なんで好きって言えるの?」

私はあくまでも淡々と口を動かす。

「初対面、か。でも、俺は前から春日原さんのこと知ってたし、春日原さんが好きだって思うよ」

「桐原君はさ、あたしと結婚したいの?」

「えっ」

話が飛躍しすぎだと自分でも思う。でもはっきりさせないと。

眉を下げて困惑している桐原君がなんだか可笑しくて、笑みがこぼれる。それは断じて馬鹿にしているとかではなくて。

「違うでしょ。もし、今桐原君とあたしが付き合っても、それっていつまで続くの? わかんないじゃん。中学の時にさ、友達が彼氏ができたって喜んでたの。でも一ヶ月もしないうちに別れちゃった。そういうの見ててね、思ったの。何を思って付き合ってるんだろうって。だって、中学生がまさか結婚を見越して付き合うわけないでしょう。だったら、付き合う意味がわからないよ」

言い切って、はう、と息をつく。
桐原君は眉間にシワを寄せて考え込んでいる。
やがてその目に私を写すと、ゆっくりと口を開いた。

「……なに、それ。それって、俺が春日原さんを好きな気持ちが、勘違いだって言いたいの?」

心なしか重圧的な口調で、急に変わった桐原君に戸惑いを隠せない。

「いや、そういうわけじゃ」

「そういうことだよ。なんだよ。じゃあなに、今は誰とも付き合わないで、適齢期になったら適当に男つくって結婚すんの? 気持ちがなくても?」

「……」

「中学生だろうと大人だろうと、誰かを好きってのは変わらないんじゃないのか? 大事なのは自分の気持ちだろ。いくら春日原さんでも、俺の気持ちを否定する権利はないよ」

「――っ」

「ねえ春日原さん、俺はそんな理由じゃあきらめらんない」

「なん、で」

別に、付き合うイコール結婚だなんて思ってない。世の中学生カップルを馬鹿にしてるわけじゃない。本人が付き合いたいなら、それでいいと思う。

でもそれは、自分以外って事が前提の話であって。自身に関してはどうしても、恋とか愛とかには一歩引いてしまう。
そういうものが、どれだけ儚いか知ってるから。

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