たとえばそれが始まりだったとして
二人の目が左右を行き来するもすぐにこちらに目を向けた事で読み終えたのだとわかった。
「で、小春。行くの?」
遠藤が無機質に問う。
「うーん、それがね、今日は桐原君と帰る約束を……っと!」
話している途中で再び携帯が震えた。開いてみると、なんと桐原君からメールで、放課後部活のミーティングで少し遅れるから待っていてくれないかという内容だった。もちろん快くOKだ。三十分もかからないだろうとの事なので、教室で待っていると返信をした。最近頻繁にメールをしているおかげで、だいぶ打つのが速くなった。
何やら視線を感じて顔を上げると、無表情な遠藤と心配そうに眉を下げるみーこがじっとこちらを見つめていた。
「ハル、今日桐原君と帰るの? じゃあ、それ行かないんだよね?」
恐る恐るといった感じで上目に口を開いたみーこは、“それ”の部分で私の携帯を指差した。
「それがね、桐原君放課後部活のミーティングでちょっと遅れるみたいだから、その間に行って来ようかなーって」
するとみーこの顔がさあーっと青ざめていくのものだから焦って遠藤に助けを求めるも、遠藤は遠藤で眉間にしわを寄せて考え込んでいて、私はどうしたらいいのかわからなくて途方に暮れた。
でも、それもほんの僅かの間で、思考の渦から帰還した遠藤がみーこを宥めてくれて私はほっと息をついたのだった。
そして遠藤は言う。
「行くのね?」
その念を押すような言い方に引っかかりを感じ首を傾げそうになったけれど、なんとか縦に動かした。
「そう……、わかったわ」
そう言ったきり遠藤は窓の外へと視線を向け、予鈴が鳴るまで視線が外される事はなかった。
雨は朝と変わることなく降り続いていた。